人手が足りない時に、人を増やしてはいけない

今日はいつもより少しビジネス性の強い内容です。生産性と時間管理についてお話しします。

少子高齢化による人口構造の変化により労働力人口が年々減少の一途をたどり、あらゆる業界・業態・職種で「人手不足」が叫ばれています。

競争環境のグローバル化やIT技術の進化によりビジネスのスピードも速くなり、実際の感覚としては国内人口の減少以上に、人手不足が逼迫している感があります。

そうした人手不足への対応策として、10年ほど前から、女性の方、高齢の方、障がいをお持ちの方、外国籍の方などを積極的に活用する「ダイバーシティ(多様な方々の属性や価値観を尊重し、多様な働き方を実現すること)」が声高に叫ばれ、今なお多くの企業にとって大きな課題のひとつとなっています。

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もちろん、ダイバーシティを実現すること自体には大きな意義や価値があり、その実現を通じて多くの方々が労働市場に参画する世の中になって欲しいと私も思っていますが、

労働力の不足を、さらなる労働力の投入で解決しようとすることは、根本的な問題解決にならないと考えています。

人手が足りない状況に対して、さらに人の量を投入しても、状況は改善されません。

むしろ、状況をさらに悪化させる可能性すらあるのです。

仕事の量は無尽蔵に膨張する

「パーキンソンの法則(Parkinons’s law)」という法則があります。

イギリスの政治学者シリル・ノースコート・パーキンソンが、官僚の研究を通じて導き出したもので、

仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する

というものです。

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個人レベルで考えれば、本来は8時間で終わることのできる量の仕事であっても、自分が「9時間かかる」と思って取り組むと、9時間目一杯かかる仕事量になり、1時間の時間外労働(残業)が発生しまうということです。

「8時間で終わるはずだ」と思って取り組むと、8時間で完了するように段取りを組みます、そこに向かって仕事を進めていくため、8時間で終わる動きになるのです。

しかし、「9時間かかるだろう」と思って取り組むと、9時間で完了するように段取りを組みます。

8時間の時と比べて、工程をより緻密にしたり、作業を丁寧にしたり、成果物の細部に注視するようになるため、仕事量はしっかり9時間分になるのです。

もちろん、8時間で取り組む場合と比べて、9時間かけた方が成果物の品質が高くなることはあります。

しかし、単純に「終わるか、終わらないか」で考えた時に、本来は8時間(法定労働時間内)で済んだはずなのに、プラス1時間の残業を生み出してしまうのです。

これを組織レベルで考えると、本来は3人で十分終わるはずの量の仕事であっても、そこに4人を割り当てた場合、しっかり4人分の仕事量になってしまうということになります。

つまり、人を多く割り当てれば、割り当てた分だけ仕事の量は膨れ上ってしまうのです。

※「8時間かかるはずの仕事に、1時間を割り当てたら本当1時間になるのか?」と思われるかもしれませんが、あまりにも無理がある設定の場合、心の中で「どうせ無理」と思ってしまっているので、1時間を割り当てたことになりません

さらなる人の投入が、さらなる不必要な仕事を生み出す

もう少し具体的に考えてみましょう。

マネージャー1名、メンバー3名の4人で構成している部署があるとして、この部署の業務量が過剰になり、全員が慢性的な残業に陥っているとします。

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そして、仮に、残業で対応している分を含めて業務量を時間で換算すると、4.5人が必要であるとします。

ここに新しく1人を投入して5人にしたとすると、次のようなことが起きます。

  • 新人が配属されてくるので、その人に業務を教える時間、その人の仕事の内容をチェックする時間が一時的に増えます
  • その新人が一人前に仕事をするようになった後も、それまで4人の中で行われていた情報伝達(口頭コミュニケーションや文書・メールのやりとり)が5人で行われるようになり、その総量が増えます
  • 他部署や取引先など業務上関わる別の人達への窓口が分化するため、部内の情報伝達の総量が増えます。例えば、これまで案件Aと案件BがともにCさんの担当であったものが、人員増に伴う分業化によって案件AをCさん、案件BをDさんが担当するようになることで、それまで一度に済んでいたやりとりが個別に発生するようになります

このような事態の積み重ねで、いつの間にかしっかり5人分の仕事量が形成され、5人で目一杯の状況になるのです。

意図的な変化を加えた場合、元の状態に戻ろうとするのが自然の法則です。上記の場合、多くの場合5人とも元と同じ水準で残業をするようになること想定されます。

人を1人増やしたことで、仕事も1人分増えた。仮に価値の創造量が一定であった場合、ただ単に生産性を低下させただけの結果となってしまうのです。

足し算ではなく、引き算で考える

人手が足りないという減少に対して、人の量を増やすというのは「足し算」の発想です。

しかし、上記のように、組織に人が増えれば増えるほど、メンバー間のやりとりの総量が増加し、効率は低下の一途を辿ります。

人手が足りない時に真っ先に考えなければならないのは、人を増やすことではなく、仕事の量を減らすことです。すなわち、「引き算」の発想が必要なのです。

上記の例の場合、まずは「0.5人分の仕事を減らせないか」を考えます。

  • 必要以上に手間をかけている仕事はないか
  • 本来は他の部署がやるべきことなのに、なぜか自部署でやっている仕事はないか
  • 何の役に立っているのかわからないが、慣例で続けているだけの仕事はないか
  • IT化などによって、人の手を介さないでできるようになることはないか

など、今ある仕事量を極限まで削減することを試み、それが限界に達したと結論づけられた時にはじめて増員を検討することが必要です。

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もちろん、事業のさらなる拡大のために「投資」として人員の投入が必要な場面や、突発的な欠員の補充として人員が必要な場面はあります。

その場合は、はじめから採用を検討することが求められます。

しかし、人員の投入がさらなる仕事量の増加を招くことが原則であるならば、どれだけ人を増やしてもその分だけ仕事量が増えることになり、人手不足は永遠に解消されないことになります。

応急処置ではなく、抜本的な問題の解決を図るならば、「逆転の発想」が有効である場合が多くあります。

増やしたいのならば、まず減らす

目の前の現象ではなく、構造そのものにメスを入れる。

そのためには、「足し算」ではなく「引き算」で対処するという逆転の発想が求められるのです。

ワークライフバランスを実現するためには

仕事の量が膨大で慢性的に時間外労働が続き、私生活の時間が確保されないという場合は、パーキンソン法則を逆手にとることが有効です。

割り当てた時間を満たすまでやることの量が膨張するのであれば、就業後や休日に私生活の予定を「割り当てる」ことによって、その時間を確保することができます。

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とはいえ、ただ漠然と「休みになったら○○をしよう」と考えているだけでは強制力が働きません。

人は強制力の高い方に流れてしまうため、

やり残した仕事 > 私生活でやりたいこと

という強弱の関係になっている限り、後者を実施するのは困難です。

本当に私生活の時間を確保しようとするならば、この符号を逆転させる必要があります。

その上で効果的なのは、

・ 他人と約束をする

・ お金を払う

のいずれかによって、やりたいことを明確に「予定」と位置づけることです。

誰かと会う約束をしてしまえば、行かざるを得なくなります。キャンセルすることが許されない相手であればあるほど、強制力は高くなります。

あるいは、趣味や習い事、通学などに入会金や月謝を支払ってしまえば、そこに行かないと支払った分が回収できなくなります。強制力が働くのです。

これも逆転の発想です。

私生活の時間を増やすことによって、制限された時間内に仕事を完了させなければならない状況が発生し、工夫や改善、質の高い段取り、他人の時間など外部資源の活用によって、業務効率をさらに上げることができるのです。

「押してダメなら引いてみな」とはよく言ったものです。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。