その仕事は「何のために」しているのか ~キャリア自律の基本~

前回、「なぜ、若手がすぐに辞めると言い出すのか」と題して、早期離職と職業観についてお話しいたしました。

なぜ、若手がすぐに辞めると言い出すのか ~仕事の「意味」を考える~

仕事をジョブ(金銭を得るための対価としての労働)として捉えてしまうと、安易に「これは自分のやりたい仕事」ではないと考えて、職を転々とすることになってしまいます。目の前の仕事に対して、自分の中での意味づけができないからです。

仕事をキャリア(自分の職業人生としての仕事)として捉えると、目の前にある仕事は、自分の将来を作る上での一場面に過ぎないと見ることができます。長期的な視点に立って、自ら「いま自分が、この仕事をしている意味は何か」を考えられるため、与えられている役割に対しての自己動機づけができるようになるのです。

今回は、自律的なキャリアを形成するための基本的な考え方についてご説明いたします。

やりたいこと、できること、やるべきこと

キャリアデザインの進め方には様々な理論がありますが、中でも有名なものの一つに「Will/Can/Must」のフレームワークがあります。自分にとっての天職を考える上でのフレームとしてしばしば用いられます。

(考案したのは現代経営学の父とも呼べるピーター・ドラッカーとする説や、組織開発で有名なアメリカの心理学者エドガー・シャインとする説があります)

自分にどんな仕事が合うかを考える上で、

  • Will(やりたいこと)
  • Can(できること)
  • Must(やるべきこと)

の3つの視点から掘り下げていきましょうという考え方です。

とてもシンプルでありながら汎用性の高い考え方なので、私も企業研修などの場でしばしば用いていますが、使い方によっては独りよがりで現実味のない自己分析になってしまいます。この枠組みで特に注意が必要なのは「Must」の捉え方です。

個人の視点と組織の視点の両方で考える

Will(やりたいこと)とCan(できること)は、個人の視点に基づきます。

自分がやりたことは何か、自分ができることは何かを自覚し、その両方が満たされる仕事の方が、より自分らしさを発揮できるという考え方です。

一方で、Mustは「やるべきこと」です。「やった方がいいこと」ではなく「やるべきこと」なので、個人の意思や希望がここに入る余地はありません。Mustに個人の視点を持ち込んでしまうと、独りよがりなキャリア観になってしまいます。

Mustで考えるべきは「いま、職場から与えられている現実の仕事」です。いかに「やりたいこと」や「できること」が他にあったとしても、いま現に存在する社会との接点は「目の前の仕事」以外の何者でもありません。

どのような仕事であっても、それが仕事として成立するためには「世の中に必要とされていること」が前提となります。

どれだけ自分がやりたい、できる、と思っていても、それを必要としてくれる人がいなければ仕事として存在しえないのです。

Must(やるべきこと)は、自分の意思とは関係なく純粋に「やらなければならないこと」に相当します。言い換えれば、「いま、目の前にある仕事」そのものです。よって、Mustは組織の視点に基づくものと言えます。

前回お話しした「すぐに辞めると言い出す人」は、Mustの視点から仕事を見る意識が薄い傾向にあります。自分のWillとCanだけを考えて仕事が自分に合うか/合わないかを考えてしまうと、求められている仕事に合わせて自分の方を変化・成長させるという発想が芽生えにくくなります。

これがジョブ(job)として仕事を考える人の思考回路です。残念ながら、この考え方では適職に巡り会えるのはかなり遠い道のりになります。自分の「やりたいこと」や「できること」がそのまま仕事になってくれることは稀だからです。

自律的にキャリアを形成するためには、自分だけではなく、組織側の視点も必要になるのです。

仕事の背景を考える

Must(やるべきこと)が何かをしっかりと掘り下げられるかどうかが、本当の意味で自律的なキャリアデザインができるか否かの決め手になります。

「いま目の前にある、自分に与えられた仕事」について考える時に、実務としての作業の側面だけを見てしまうと、それ自体が「おもしろいか/おもしろくないか」「自分にとって役に立つのか/たたないのか」という短絡的な考えにとらわれてしまい、その仕事の本当の意味に気づけなくなってしまいます。

繰り返しになりますが、すべての仕事はそれを必要としている人がいるからこそ、仕事として成立しています。

たとえ、いま職場から与えられた仕事が単調でつまらなかったり、自分が好きだと思えるようなものでなかったりしたとしても、職場にその仕事があるのは組織がそれを必要としているからです。そして、組織が必要としているのは、業界や市場、そして世の中がそれを必要としているからだと言えます。

すべての仕事には「存在する意味」があります。表面的な作業ではなく、その仕事が持つ意味を、広い視野から考えることが重要です。

全体的な視点をもって、自分が担当する仕事の背景を捉えることができた時、その仕事は単なる「作業」ではなく、意味や目的のある「役割」に映るようになります。

そして、仕事の意味や目的を理解すると、自分に課せられた役割を果たすために、自分の「やりたいこと」や「できること」をどのように活用できるかを考えられるようになります。

これが、仕事への工夫や改善、新しい取り組みなどを生み出す原動力となる自律性や主体性の発揮につながります。「何をさせてもらえるのか」と考えるか、「何をしたら組織に、お客様に貢献できるのか」と考えるかの差が、仕事の満足度や自己成長に大きな影響を及ぼします。

長期的なキャリアを形成するためには、自分に合う仕事をただ求めるだけではなく、社会との接点である「目の前の仕事」に対して、自分の持ち味を適合させていく思考が必要になるのです。

「天は自ら助くる者を助く」と言います。与えられる人から、自ら与える人になることで、受け身で仕事を授かるのではなく、自ら仕事を創り出していくことができるようになります。

あなたが今やっている仕事の「意味」や「目的」は何でしょうか。それが明確になった時、あなたの仕事はより一層、尊く素晴らしい仕事になることでしょう。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。